プロジェクトリポート

中央アジア地域における観光開発分野に係る情報収集・確認調査

日本の某旅行会社の方に聞いた話によると、中央アジアへ出かける人は年代別の傾向があるそうです。年配の方は1980年代に一世を風靡したNHK特集「シルクロード」の世界に憧れて、若い世代は漫画『乙嫁語り』を読んでその世界観に魅了されて、中央アジアのツアーに参加されるのだとか。私はどちらかというと、前者の世代に近いようです。

 

昨年(2021年)度、独立行政法人国際協力機構(JICA)の「中央アジア地域における観光開発分野に係る情報収集・確認調査」に参加する機会を頂きました。本案件の目的は、中央アジア(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンの5か国)における観光開発の現状と課題を明らかにすることでした。

 

旧ソ連時代の美しい地下鉄駅(タシケント)

 

シルクロード国際観光大学のホテル実習室(サマルカンド)

 

これら5か国は、日本が「中央アジアの『開かれ、安定し、自立した』発展を支え、地域協力の発展のための『触媒』として地域及び国際の平和と安定に寄与することを目的とした」外交枠組みである、「中央アジア+日本」対話の参加国でもあります。2019年に行われた同対話の外相会合では、観光業の発展が中央アジア各国の経済・社会の発展やつながり、そして、日本及び中央アジア各国間の相互理解を促進するとの認識の下、実践的協力分野に観光が加えられました。

 

翌2020年の専門家会合(観光分野)では、「中央アジア」というブランドを強化するためには各国の協力が重要であるとの認識が示されました。一方で、5か国の観光分野における競争力は決して高いとは言えず、観光分野における5か国の連携も十分ではありません。

 

対象5か国のうち、実際に現地を訪問できたのはウズベキスタンとキルギスの2か国でした。ウズベキスタンは、2016年に公布された大統領決定で観光を国家経済の戦略的分野として位置づけたのを皮切りに、2018年には日本を含む7か国に対して観光査証を免除するなど、観光立国を目指した政策を急ピッチで進めてきました。その結果、2017年には269万人だったインバウンド観光客が、2018年には535万人、2019年には675万人に急増することとなりました(世界観光機関の統計より)。そして、それに伴い、航空券や列車のチケットの予約が著しく困難になるなどの弊害が表面化していました。

 

渡航前の文献調査や旅行会社などへのヒアリングで得たそんな知識を携え、2021年6月、現地に向かいました。現地関係者へのヒアリングで浮かび上がってきたのは、観光業の量的急拡大に、インフラ整備及び観光人材育成のスピードが追い付いていない状況でした。一方で、市場経済化が進むウズベキスタンでは、民間の業界団体が存在感を増してきています。今後は、政府と民間が人材育成や基準作りなどにおける協力関係を深めていくことが期待されます。

 

観光客数が急増し、予約困難になったウズベキスタン高速鉄道「アフラシャブ号」

 

歴史的建造物のずさんな修復の様子(サマルカンド)

 

旧ソ連から独立して以来30年間、中央アジアは常に国境紛争のリスクを抱えています。さらに、昨年(2021年)から今年(2022年)にかけて、中央アジアの周辺では、国際関係に大きな影響を与える出来事が続いています。2021年8月には、アフガニスタンでタリバンが政権を再び掌握し、2022年に入ってすぐ、カザフスタンで大きな暴動が起き、2月にはロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。既に2年以上続く新型コロナウイルス感染症の流行によって受けたダメージから回復しようとしている観光業にとっては、試練が続いています。

 

国連が「観光は平和へのパスポート」というスローガンを掲げ、1967年を「国際観光年」と指定してから今年で55年。大学卒業後、観光は人の移動を促すことにより世界各国の相互理解を促進し、平和の創造に貢献する産業であるとの信念を持って、観光業界に飛び込んだのが○十年前でした。今後も、観光の持つ力と中央アジアの観光ポテンシャルを信じ、その持続的発展と域内及び世界の平和を願わずにはいられません。

 

コンサルティング第一本部  堤 香苗

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