プロジェクトリポート

中米・カリブ地域「With/Post COVID-19社会における開発協力の在り方に係る情報収集・確認調査」

1979年に当時の大分県知事 平松守彦氏が提唱した「一村一品(One Village One Product: OVOP)運動」は、「ローカルにしてグローバル」、「自主・自立・創意工夫」、「人づくり」を理念に、日本の地場産業振興の手法として活用されてきました。住民が地域資源を(再)発見し、地場産品の高付加価値化やブランド化を進め、やがて、地域全体のブランド化や魅力向上へとその目的や活動が拡大発展し、今日に至ります。

 

そして、独立行政法人国際協力機構(JICA)は、地域経済活性化やコミュニティの能力強化のツールとして、アジアやアフリカをはじめ世界中でOVOPを活用した技術協力を展開しています。中南米では、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、コロンビアで実績がありますが、カリブ地域では未展開でした。

 

筆者は、2021年度、JICA「中米・カリブ地域With/Post COVID-19社会における開発協力の在り方に係る情報収集・確認調査」において、観光セクターの調査を担当する機会を得ました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大とそれに伴う外出・移動制限により、世界的に非正規雇用者の大量失業や公的債務の悪化を招き、それは中米・カリブ地域も例外ではありません。そこで、今後のWith/Post COVID-19の状況下、経済社会活動のレジリエンス(強靭性)を高めていくために、日本の同地域への協力の在り方を提言すべく、本案件が実施されました。

 

本案件では、情報収集・分析に加え、パイロット事業を実施し、その結果も踏まえた提言が求められました。「ドミニカ共和国:モバイルを活用した脳卒中遠隔医療実証」や「グアテマラ:治安分野におけるICTソリューションの導入検討」など、計8件のパイロット事業が行われましたが、その中で筆者が携わったセントルシアにおける「OVOP運動の紹介と定着」事業について紹介します。

 

セントルシアは東カリブに浮かぶ島国で、東京23区と同じくらいの面積の国土に18万人が暮らしています。周辺の小島嶼開発途上国(Small Island Developing States: SIDS)と同様、人口・経済規模が小さい上、気候変動に対する脆弱性と、観光業のような外的要因に左右されやすい産業への依存度の高さが特徴です。

 

首都カストリーズはカリブ海クルーズの寄港地として人気ですが、カリブ地域の他のSIDSと同じく、外資系のクルーズ会社やオールインクルーシブリゾート(宿泊代金に滞在中の様々な費用を含んでいるため、宿泊客はリゾートの敷地から一歩も出る必要がない)の存在により、本来地元に落ちるべき観光収入の大部分が海外に漏出してしまう観光リーケージが問題となっていました。また、地元産品が国民にも認知されていない上、COVID-19禍で観光業も低迷する中、セントルシア農業省は内需拡大の必要性を認識し、台湾政府の協力の下、ファーマーズマーケットの開催などに取り組んでいました。

 

カストリーズの港に停泊するクルーズ船(中央奥の白い船)

 

係る状況下、我々調査団も農業省と共にOVOPのパイロット事業実施に向けた準備を進める中、商業省もOne Community One Product(OCOP)という類似の事業の構想を持っていることが分かりました。そこで、商業省の協力も得て、島内に11ある地区のうちの3地区をパイロット地区として、OVOP認証の試行やOVOPフェアの実施などを行いました。対象となった産品は、ショゼール(Choiseul)地区の工芸品、ミクッド(Micoud)地区のシーモス(海藻)製品、スフレ(Soufriere)地区のカカオ製品でした。

 

現地コンサルタントを通じて参加を希望する生産者を集め、アフリカのセネガルのOVOPプロジェクトで使用されたOVOP認定基準をセントルシア向けにカスタマイズしたものを使って品評会を行いました。そこで一定の評価を得た産品を首都の会場に集め、2021年12月にOVOPフェアを行いました。

 

OVOPフェアの様子

 

パイロット事業開始前は、はたしてこの小さな島で、産品に地区ごとの違いがあるのか、島全体でバナナくらいしか特産品がないのではないか、と懸念する声も聞かれました。筆者はOVOPフェア直前にセントルシア入りして数人の出展者を訪問しましたが、地区ごとの地形や産品の多様性に驚かされました。

 

例えば、ショゼール地区の海沿いを通りかかったとき、ビーチでおばあさんが竹細工を編んでいるのを見かけました。そして、隣同士に住んでいる年配の姉妹はどちらも素焼きの陶器を作っていましたが、それぞれデザインや用途に特徴や違いがありました。一方で、スフレ地区の出展者は、なんと自宅の納屋の洗濯機のすぐ横でカカオスティック(カカオの実を発酵、乾燥、ロースト、粉砕し棒状に固めたもので、チョコレートドリンクの材料となる)を作っており、食品衛生の面で改善の余地がありそうです。

 

素焼きの陶器の製造風景(ショゼール地区)

 

裏庭でカカオの実を収穫(スフレ地区)

 

昨年(2021年)度は、別案件でマラウイやキルギスのOVOPについて調査する機会もあり、一口にOVOPと言っても、その活用方法や目指すところは様々であると感じています。翻ってセントルシアでは、OVOP(OCOP)を通じて、農業省と商業省が目指したい方向性が一致していない印象を受けました。セントルシアが目指したいのは何か(例えば、貧困削減なのか、輸出振興なのか、など)。その際、OVOPのコンセプトをどのように適用していくのか。報告書では、これらの点について関係者間でのコンセンサス形成が必要である旨を指摘しました。セントルシアの関係者が議論を尽くし、OVOPのセントルシアモデルを作り上げていってくれることを期待しています。

 

コンサルティング第一本部  堤 香苗

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