プロジェクトリポート

バングラデシュ国「投資促進・産業競争力強化プロジェクト」

ダッカの朝は、いつも遠くで車のクラクションの音がします。市内の交通渋滞は日本の比ではなく車もリキシャ (自転車が動力の人力車)も人も多いのですが、街は常に活気に溢れています。

 

ダッカの街並み(Tejigaon地区周辺)

 

プロジェクト概要

 

バングラデシュでは製造業のうち縫製業が輸出の7割以上を占めており産業構造が偏っています。そのため外国直接投資の促進と国内産業競争力の強化、それらのリンケージの促進によって、「産業の高度化・多角化に寄与する」ことを目標に本プロジェクトは実施されました。

 

本プロジェクトは3つのコンポーネント(「投資・ビジネス環境の整備および投資促進機関の強化」、「経済特区運営体制の強化」、「産業振興体制の強化」)から構成されており、実質的に3つの技術協力プロジェクトから構成される大型のプロジェクトでした。2017年5月から2022年5月までの実施期間中、ユニコは「産業振興体制の強化」を担当しました(詳しい背景は2018年のプロジェクトリポートもご参照ください)。

 

ユニコが主導した「産業振興体制の強化」のチームは、延べ10名の日本人と3名のバングラデシュ人からなり、現地の産業省、産業技術支援センター、中小企業財団をパートナー機関として活動を行いました。筆者は特に企業のマッチング(リンケージ創出)支援および広報支援、日本人専門家の実施する各研修の計画・評価に係る支援を担当しました。

 

最初の1年間は、対象産業である金属加工およびプラスチック産業について現状調査を行いました。2年目以降は調査結果を基に活動計画を作成し、「現地企業と外資系企業とのマッチング支援」、「裾野産業振興に係る施策面の支援」、「(現地企業を支援する)支援機関・業界団体の能力強化支援」を実施しました。

 

1.現地企業と外資系企業とのマッチング支援

 

現状調査を経て2018年初頭に金属加工およびプラスチック成形の有望企業が選出されました。産業多角化の候補として外資系自動二輪車(バイク)企業とのマッチングを促進するため、有望企業によるバイク部品の試作と外資系企業による試作品に対する品質評価での合格を目指しました。バングラデシュのほぼ全ての金属加工やプラスチック成形企業は、バイク部品を作った経験がない状態からのスタートでした。

 

金属加工企業は、家電製品などを生産している大企業はわずかにありますが、大多数の企業は小規模です。プラスチック企業は金属加工企業と比べると規模が大きく、プラスチック製の椅子、食器などの家庭用品を多く生産しています。このうち設備が比較的整っているプラスチック企業3社(モデル企業)と外資系企業3社とのマッチングが成立しました。

 

支援の方法として各分野の日本人専門家がモデル企業を訪問し、外資系企業の要望に対応できる品質管理の体制を持つ生産ライン(モデルライン)を立ちあげることになりました。モデルラインでは常に同じ品質の製品をつくるため、原材料の管理から完成品の出荷までの各工程において品質改善の取り組みを実践しながら身に付けてもらうようにしました。

 

モデルライン(設置前)

 

モデルライン(設置後)

 

2020年3月以降コロナ禍となり活動は一旦休止となりましたが、現地での状況が少し落ち着いた2020年7月頃からオンラインでの支援を再開しました。コロナ禍により能力強化の進捗は遅れましたが、2021年10月の渡航再開後は、対面での研修を集中的に行ったことで能力強化が急速に進みました。モデル企業2社については、2022年3月までに外資系企業との部品試作や金型移管に向けた協議を開始し、当初の目標に近い状態まで到達することができました。

 

2.裾野産業振興に係る施策面の支援

 

外資系自動二輪車企業は、現地での部品調達を中長期的には望んでいるものの、短期的には輸入した方が安く済むためメリットがないという課題がありました。このような課題に対し産業省の政策担当者に向けて、自動二輪車産業の裾野産業振興に向けた計画案の策定を支援するなど施策面についても協力を行いました。

 

2019年3月には産業省・支援機関・業界団体の職員を対象にタイにて第三国研修を実施しました。タイの関連施策や支援機関による取り組みを学習するため中小企業支援機関や自動車・バイクの認証機関、バイク部品工場などを訪問し、参加者間で今後のバングラデシュにおける施策案について議論を深めました。

 

タイ第三国研修にて参加者が政策案について議論を行う様子

 

3.産業技術支援センター・中小企業財団を含む支援機関、金属加工・プラスチックを含む各業界団体の能力強化支援

 

中小企業向けにはモデルライン構築の経験を共有するセミナー形式の講義を実施しました。2021年の渡航再開後は、実際のモデルラインを各業界団体に所属する民間企業(中小企業の技術者・中間管理職・経営者など)や支援機関の職員に訪問してもらうことも重視しました。

 

更に産業技術支援センターでは金型技術の研修、中小企業財団ではカイゼン(品質・生産性向上)を企業に指導する講師候補を育成するための研修、プラスチック業界団体の研修機関では射出成形技術に関する研修を行うなど、各機関の人材育成のため日本人専門家による研修を企画・実施しました。コロナ禍により一部、実習ができない期間があったものの、オンラインでの研修を継続することで、可能な限りの人材育成に努めてきました。

 

2020年2月から3月初頭には本邦研修も行いました。バングラデシュの支援機関や業界団体から派遣された優秀な人材が金型加工の実習、日本における金属加工やプラスチック成形工場での品質管理、日本における職業訓練校や中小企業支援機関の実態について学習を行いました。コロナ禍が始まる直前でしたが、厳戒態勢で臨み無事に終了することができました。

 

本邦研修の様子

 

おわりに

 

どのような点が成果に繋がったのかと考えると、ベテランの日本人専門家の皆さんによる各分野の専門的な技術や経験はもちろんですが、バングラデシュの人々から高い信頼感を得られるような専門家の皆さんの現場に寄り添う姿勢、参加者を飽きさせない教え方の上手さといった点も大きな要素であったと感じています。

 

5年間の間、熱意をもって現地の人に指導する諸先輩方の姿、現地の企業・支援機関の支援について効果的な方法を考え続ける姿を見て学び、たまには真似してみることで、多少は成長できたような気もします。この経験を今後に活かしていければと思っています。

 

ダッカ郊外の景色
(Ashulia地区周辺)

 

余談ですが、バングラデシュ人の皆さんは辛い食べものが好きです(辛くなければバングラデシュ料理ではないとのことです)。善良なピーマンに擬態した青唐辛子がカレーだけではなく、一見普通の野菜炒めにも忍者のように隠れていることがあり、意図せずに食べると悶絶することがよくあります。バングラデシュ料理は美味しいのですが、辛い物が苦手な方はお気を付けください。

 

追記:当時の現地スタッフ(プロジェクトアシスタント)のインタビュー記事もよろしければ、併せてご参照ください。

 

コンサルティング第一本部
野口 優太

貢献可能なSDGs目標

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