プロジェクトリポート

タンザニア国「産業人材育成にかかる情報収集・確認調査」

知りたいことのおおよそ半分はネットや本で調べればわかることだ。どこにも載っていない「もう半分」を知るためには自分で考え出すか、体験するしかない――マンガ「宇宙兄弟」の主人公の一人、南波日々人の言葉です。「タンザニア国 産業人材育成にかかる情報収集・確認調査(2021年9月~2022年3月)」では、まさにこの言葉を実感させられることとなりました。

 

タンザニアの首都 ダルエスサラーム

 

半年(実質5カ月)という短期間で、90社以上の企業へのアンケート調査、関係機関へのオンライン調査、現地でのインタビュー調査、新しい職業訓練モデル(以下「訓練モデル」)の提案、訓練モデルの実証実験(試行と評価)といった活動を全て完了するという困難なミッションを前に、調査チームは頭を抱えていました。さらに、コロナ禍で活動スケジュールの調整を何度も求められ、挙句の果てには「現地渡航なし。100%オンライン調査」という可能性と真剣に向き合わなければならない状況に追い込まれました。

 

こうなると、調査チームも可能な限り日本で入手可能な文献を読み解いて仮説を立て、アンケート調査とオンライン調査で得た情報を加味して訓練モデルを作り上げるしかないと考えるようになります。事実、こうしたアプローチは今回の調査のように厳しい時間制約がある場合ではよく用いられますし、最も効率的な手段に思われました。かくして急ピッチで訓練モデルをこしらえ、かりそめの安心感に浸っていた調査チームでしたが、幸運にも念願の渡航許可が下り、無事にタンザニア入りしたのも束の間、現地調査を続けていく中で続出する新しい事実の発見を前に机上の空論に陥っていた自分たちの調査姿勢を猛省したのでした。

 

例えば、タンザニアでは職業教育訓練公団と国家技術教育評議会の2つの政府機関が職業訓練・技術教育事業を所掌しています。前者が初級レベル(レベル1~3)を、後者が中上級レベル(レベル4以上)を担当していますが(2022年2月時点)、両者の間にはカリキュラムや取得技能の整合性が図られておらず、初級レベルの最終学年であるレベル3の学生が、中上級レベルの入り口となるレベル4に進級するのに支障をきたしているという問題がありました。

 

タンザニア政府も、この「レベル3からレベル4への移行」を重要課題として認識していることは報告書からも読み取れるのですが、実際に現地で調査をしてみると、その前段階の「レベル2からレベル3への移行」にも支障をきたしていることが分かりました。つまり、最優先すべき課題は「レベル3からレベル4への移行」ではなく「レベル2からレベル3への移行」であったわけです。こうした事実の発見により、調査チームは調査仮説の変更を余儀なくされました。

 

公立の職業訓練校で学ぶ学生

 

これ以外にも、現地調査では事前に想定していた仮説がひっくり返されるような発見がいくつもありました。その都度調査チームは急遽追加調査を行うなど想定以上の汗をかくことになったのですが、現地に眠っている貴重な情報を多く把握できたおかげで、タンザニアの職業訓練分野の支援としては斬新且つユニークなアプローチの提案に結び付けることができました。

 

これまで職業訓練分野の支援協力というと、大規模な設備・機材を投入し、最新のテクノロジーを反映させたカリキュラムを整備して職業訓練校の先生の知識・スキルを強化するというのが定石のアプローチでした。しかし、昨今市場のテクノロジーの変化は速く、技術支援を通じて供与した設備・機材の老朽化や技術移転したカリキュラム・スキルの陳腐化は私たちが思うよりも早くやってきます。その都度、こうした大規模な支援を繰り返すのはあまり生産的とは言えませんし、日本の支援協力も資金が潤沢にあるわけではありません。そこで、調査チームは新しいアプローチを提案することにしました。

 

端的に言うと、職業訓練校が市場のテクノロジーに追いつくことを常に求められる民間企業に訓練コースの運営を一部委託するというアプローチを提案しました。具体的には、職業訓練校が民間企業と提携して、特定の技術に関する授業(理論、実技)を民間企業に担ってもらうことで、特定分野における最新のテクノロジーに関する知識やスキルを無理なく学生に移転させるという方法です。

 

これにより、職業訓練校は市場のテクノロジーの変化に追いつくために大規模な投資を何度も繰り返す必要がなくなるというわけです。このように、調査チームは職業訓練校が単独で授業を運営するための能力強化という従来のアプローチから、外部リソースを有効活用できるようにする仕組みの構築へと方針転換することを提案しました。この提案は、タンザニアではまだ珍しく、試してみる価値ありと判断されたのか、タンザニア側関係者や国際協力機構(JICA)のタンザニア事務所からは好評を得ることができました。

 

訓練モデルの実施風景①(座学研修)

 

訓練モデルの実施風景②(実技研修)

 

今後、調査チームの提案内容がさらに精緻化されて、具体的な支援の実現へと進展していくことが期待されますが、このように新しい価値を生み出すことができたのも、調査チームが幸運にもタンザニア現地を訪れ、リアルな世界に身を置き、考え、体験する機会に恵まれたからに他なりません。冒頭で述べた、どこにも載っていない「もう半分」を知るために、現地に行くためにもがき、現地に行ってからもさらにもがき続けるという姿勢をこれからも貫いていきたいと思います。

 

コンサルティング第一本部  作増 良介

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