プロジェクトリポート

モルドバ共和国「農業機械化訓練センター機材整備計画(2007年2月~2007年9月)」

モルドバという国をご存じですか?ヨーロッパの東端、黒海の北西に位置し、ウクライナとルーマニアに挟まれた小国、九州全体より少し小さめの国土に400万人程度が暮らしている農業国です。

南北に流れる2つの大河に挟まれた国土は概ねゆるやかな丘陵地で、肥沃な黒土に恵まれ、伝統的に農業をその経済基盤としてきました。

地政学的に重要な位置にあるため、19世紀頃はロシア帝国とオスマン帝国に蹂躙され、ロシア革命後1991年までは旧ソ連邦下にあり、ルーマニアとソ連との領土をめぐる確執の中で振り回されてきました。

このため多くの民族がこの土地を通り過ぎ、国民はモルドバ語(ルーマニア語と同系統)を話すラテン系の民族が主であるものの、他にロシア系、ウクライナ系、トルコ系、ブルガリア系等の多民族から構成されています。

特にドニエストル川東岸地区に住むロシア系住民はモルドバからの分離独立を宣言し、現在もロシア軍一個師団が駐留する係争地となっています。このような混乱した政治状況の中で同国の経済インフラの整備は遅々として進まず、現在100万人近いともいわれる出稼ぎ者が欧州やCIS諸国から送金する外貨収入が国の経済の下支えをしていると言われています。

技術を身につけた労働者の海外流出が増え国内の技術力の低下が叫ばれる事態に対処するため、基幹産業である農業分野での人材育成を拡充強化する、それがこのプロジェクトの目標です。

首都キシナウ市は人口80万人程度、丘陵とその谷間に開けた静かな町で、その中心部から車で10分程の所に国立農業機械化訓練センターは位置しています。基本設計調査団が初めてこのセンターを訪問した2007年2月には自国負担の建物がほぼ完成していました。

他の途上国の場合、無償資金協力で調達された機材が現場に到着するぎりぎりまで自国側で負担する建築工事が完工しないのが当たり前という「業界常識」に反して、モルドバの、というよりは今回の実施機関である農業食品産業省PIU(プロジェクト実施ユニット)のマネジメント能力の高さに、正直驚きました。

我々のカウンターパートは元農業副大臣で、英語を完璧に話し、市場経済システムを十分に理解する人物でした。つまり、我々はあまり苦労することなく調査を完了できた、ということです。

先方負担の建物が完成して1年半経ってからようやく日本の協力による機材が入るということに、多少申し訳ない気持ちが湧いてきます。援助プロセスの短縮等の制度改善、それが今後の課題と言えます。

コンサルティング事業本部
志賀 渉

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