プロジェクトリポート

マレーシア国「中小企業振興公社人材育成計画プロジェクト(2010年1月~2012年3月)」

本プロジェクトは、技術協力案件で、主管はJICAマレーシア事務所、カウンターパートはマレーシアの通商産業省傘下の中小企業振興公社(SMIDEC)、技術協力の内容は、中小企業カウンセリングの研修プログラムの策定・実施です。

研修の対象は、SMIDECを主体に、MPC(マレーシア生産性公社)、SME Bank等の職員で、研修の目的は、これら政府機関の職員の中小企業に対するカウンセリング能力を向上させ、同国の中小企業を支援する行政人材(中小企業カウンセラー)を育成することにあります。

マレーシアでは、製造業の99%が中小企業であり、中小企業は国内の雇用の56%を担っています。そのため、同国経済にとって、中小企業の経営能力や技術力の向上は、最重要課題の一つになっています。また、マレーシアは、マレー人(人口の約57%)、華人(同33%)、インド人(同9%)等から成る多民族国家であり、起業を含む中小企業の育成と競争力の強化は、民族間の融和と経済格差の是正という観点からも、重要な意義を持っています。

本プロジェクトでは、2006年5月から9月までの5ヶ月間で、マレーシア側の研修ニーズを調査し、研修プログラムを作成しました。2006年10月末に開講式を行い、以降、半年毎に一つのコースを実施し、2009年3月までの2年半の期間に、同一内容のコースを5回実施しました。

研修科目は、「カウンセリングの基礎知識」、「財務管理」、「税務管理」、「生産管理」、「マーケティング」、「経営診断」の6科目で、各コースで、3つの研修セッションを設定し、第1セッション(10日間)では、「カウンセリングの基礎知識」、「財務管理」、「税務管理」の3科目、第2セッション(10日間)では、「生産管理」と「マーケティング」の2科目、第3セッション(10日間ないし12日間)では、「経営診断」の科目の研修を行いました。

各コースには、SMIDECから約10名、MPC、SME Bank等から約5名、合計15名程度の政府機関の職員が参加しました。5回のコース全体では、約70人になります。職場で中小企業に対するカウンセリング業務に携わっている30代の職員が多勢を占めますが、参加者の年齢は、20代前半の若手から、40代後半の地方事務所の所長クラスまで、幅があります。研修の講師は、日本人(中小企業診断士3名、大手企業のOB2名)5名、マレーシア人1名で、マレーシア人の先生は、「税務管理」を担当しました。各先生は、カウンセリングの実務に重点を置いた研修プログラムを作成し、講義と実習を行いました。

講義は、毎日、9時から5時過ぎまで、同一科目の研修を6時間行いました。9時に研修が始まり、午前中の研修は、10時半頃にブレイクを入れ、12時半まで行いましたが、10時半のブレイクは、研修生にとって、単なる休憩ではなく、朝食タイムになっています。研修生の多くは、7時前に家を出るため、朝食抜きで来ています。10時半の休憩になると、トレイに盛られたサンドイッチ、焼そば、菓子などが10分ほどで無くなります。当初は気が付かなかったのですが、午前中のブレイクが朝食タイムとわかってからは、少し多目に時間を取るようにしました。

また、金曜日は、ムスリムにとって特別な日で、12時までに午前中の仕事を終え、2時半まで、長いランチタイムを取ります。この時間、男性は、食事の後、近くのモスクにお祈りに行き、身体を洗い、説教を聴きます。女性は、モスクには行かず、お祈りをした後、室内で休んだり、ショッピングに出たりして、時間を過ごします。2時間半の休憩の後も、4時頃に午後のブレイクを取るため、金曜日の研修時間は、実際には、半日余りしかありません。

「経営診断」の実習では、研修生を2つのチームに分け、各チームが現地企業を2社訪問しました。日本人の先生の指導で、2日間ないし3日間、工場調査及び経営幹部とのヒアリングを行い、経営管理、生産管理、財務管理などの視点から1日半で診断結果をまとめ、半日、各企業に対してプレゼンテーションを行いました。最終日に、研修室で4つの診断事例に関する内部報告会を行い、先生が、講評を行い、具体的な改善案を提示できるようアドバイスを与えました。

研修期間中、日本とマレーシア双方の時事や生活習慣などの話題で盛り上がったり、研修生が、マンゴスチンや自家製のケーキを持って来たりして、研修全体の雰囲気も良好であったと思います。マンゴスチンは、ドリアンが「果物の王様」と呼ばれるのに対して、「果物の女王」と呼ばれ、柔らかい果肉と上品な甘味に人気があります。

2009年1月末に、最後の第5回コースが終了し、3月10日に、JICAマレーシア事務所とSMIDECの共催で、本研修の修了式典が行われました。この式典で、第1回から第5回の各コースを修了した62名に対して、マレーシア国通産省のジャコブ・ドゥングン・サガン副大臣から、中小企業カウンセラーの修了証が授与されました。

コンサルティング事業本部
長谷川 寛

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