プロジェクトリポート

バングラデシュ国「投資促進・産業競争力強化プロジェクト」

1.プロジェクト の概要

「バングラデシュ国投資促進・産業競争力強化プロジェクト」は、JICAの開発計画調査型技術協力案件です。開発計画調査型技術協力は、開発調査と技術協力プロジェクトを合体させたようなスキームで、調査及びその結果を基にした計画作りと、同計画の実施をとおした相手国への技術移転を図ります。

 

プロジェクトの目的は、バングラデシュへの外国直接投資を促進するための政策・施策と、国内産業を振興するための政策・施策の調和を図ることで、外資系企業と国内企業とのリンケージを強化することにあります。ここで「リンケージ」の強化とは、外資系製造業から国内裾野産業への後方連関、つまり、国内企業からの外資系企業への部品供給を強化することを意味します。

 

このプロジェクトの特徴は、本来であれば一つのプロジェクトとして扱うような大規模なコンポネントを3つ組み合わせ、一つの大型のプロジェクトとしている点にあります。プロジェクトというよりは、プログラムといった方がしっくりくるかもしれません。これら3つのコンポネントとは、1)外国投資の促進・ビジネス環境の整備、2)経済特区の開発、及び3)裾野産業の振興です。このうち、ユニコは3)の裾野産業の振興を担当しており、他の2つは他社が受け持っています。合わせて26名の団員が参加しており、コンポネント3)だけでも8名の団員が配置されています。

 

これら8名のうち、ユニコからは、渡邊(コンサルティング第一本部顧問)、畠、野口、わたし(いずれもコンサルティング第一本部コンサルタント)が参画しています。2017年4月下旬から始まった本件の実施期間は5年、わたしがこれまで参加してきたJICA案件のなかでは、もっとも長期間にわたるプロジェクトです。

 
金属加工企業の作業場

2.担当コンポネントの概要と自動二輪車産業

コンポネント3)では、金属加工企業とプラスチック加工企業を対象として、両産業と外資系自動二輪車生産企業とのリンケージ強化、つまり、自動二輪車生産企業の要求を満たす金属・プラスチック部品を国内企業が生産・供給できるような能力を育成することを主題としています。そのために現在行っていることが、現状調査及び活動計画作りです。

 

活動計画を2018年3月までに策定し、ラマダン明けイード休暇後の7月以降、同計画を実施しながら、バングラデシュ側パートナー機関や金属加工・プラスチック加工企業に対する技術移転を図っていきます。最終的には、バングラデシュ側パートナー機関が、自立的に計画を実施していく体制を構築することを目指します。

 

現在、バングラデシュにおける自動二輪車の年間販売台数は約30万台です。ちなみに、人口がバングラデシュの約60%のベトナムでは300万台以上、人口は8倍以上になりますがインドでは1,700万台を超えるそうです。この30万台の市場を、現地企業数社(中国の技術を使用)、インド系企業(現地OEM企業を含む)4社、ホンダの現地法人、スズキ製品を組み立てる現地企業などが計30以上のブランドを投入して争っています。

 

なお、市場を席巻しているのはインド勢で、約80%のシェアを握っています。この市場が今後大きく拡大していくかどうかは誰も分かりませんが、少なくともバングラデシュの自動二輪車生産企業はそう信じているようです。市場が大きくなればなるほど自動二輪車部品の需要も大きくなり、本コンポネント実施の意義も大きくなると期待されます。

 

3.チャレンジ

しかし、バングラデシュの自動二輪車生産企業は、ごく少数の部品を自社生産あるいは国内企業から調達しているものの、99%以上の部品は輸入して組み立てる業態なので、現在のところ国内企業への後方連関はほとんど存在しません。そのため、自動二輪車部品の需要は小さく、金属加工企業もプラスチック加工企業も一部の補修部品を除いては、自動二輪車部品の生産を行っていません。

 

金属加工企業に関しては、町工場的な零細企業が多く、狭く薄暗い作業スペースで古い工作機械を使った加工を行っているのが一般的です。尊敬すべき職人肌の経営者が多く、品質に対する自信はあるようですが、あくまで直感で品質を判断しているようです。近所の居酒屋にいるおじさんのようで個人的にはむしろ好きなのですが、彼らが外資系自動二輪車生産企業の部品ベンダーになることは、少なくとも現段階においては想像できません。

 

他方、プラスチック加工企業については、大規模で近代的な企業もあり、国際標準や工業規格も取得し品質に対する意識も金属加工企業と比べれば高いのですが、いかんせん自動二輪車の部品を扱ったことのある企業がほぼ皆無という状況です。

 

つまり、リンケージの強化をほぼゼロの状態からスタートすることになります。プロジェクト期間中に、需要側の国内調達を促進し、需要側のニーズに合わせて供給側の製品多角化と能力向上を図り、さらには両者をマッチングさせるということが本当にできるのか、とても困難ですが取り組みがいのあるチャレンジだと思っています。バングラデシュの自動二輪車市場が拡大すると今でも酷いダッカの交通渋滞がもっと酷くなるのではないかという不安を感じながらも、プロジェクトの成功に向けて尽力していきます。

 

*本稿は2018年1月に執筆したものです。

コンサルティング第一本部
杉山 圭介

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