プロジェクトリポート

貧困・格差解消およびジェンダー平等促進に向けたインクルーシブビジネス活用・支援に係る事例研究

途上国の社会的課題解決に役立つビジネスは、どのような形態があり得るのでしょうか。これまで、いわゆるBOP層(Base of the Pyramid:年間所得3,000米ドル以下の層)の求める製品・サービスのニーズを満たすことで貧困削減を実現することを狙いの一つとするBOPビジネス、さらには主に低所得者層を対象とし、自然環境や貧困等の社会的課題を市場としてとらえ、持続可能な経済活動を通して問題解決に取り組むことを狙いとするソーシャルビジネスなど、開発とビジネスの両方の実現を目的とする類似した概念は多くありました。そのほとんどは、BOP層あるいは貧困層・低所得者層を対象としたビジネスモデルであり、ビジネスを通じた貧困削減・格差解消などの社会的課題の解決を目的とするものです。その中で、2005年の世界経済フォーラムから登場した「インクルーシブビジネス(IB)」は、これまでとは異なったアプローチを取るビジネスモデルとして注目されました。

IBは、貧困層がビジネスのバリューチェーンにおけるあらゆる段階に主体として関与しているという点に特徴があります。また、貧困層のみならずあらゆる層を対象とし、そのコア事業において事業利益を上げつつ貧困削減や格差解消などの社会的課題解決を両立させることを目標とするというビジネスモデルです。今回、私が従事したプロジェクト研究「貧困・格差解消およびジェンダー平等促進に向けたインクルーシブビジネス活用・支援に関する事例研究」は、IBをJICAで初めてプロジェクト研究のテーマとして取り上げたものです。

IBの定義は、国際機関・援助機関等により異なります。本件ではIBを「BOP層を消費者、生産者、流通業者、あるいは小売業者として位置づけ、バリューチェーンに組み込んだビジネスとして成立し、雇用の拡大や起業支援による貧困削減と格差の解消に貢献するビジネスモデル。同時に女性の経済的エンパワメントを通じたジェンダー平等へ貢献するもの」と定義しています。

学校をドロップアウトした若い女性によるパッションフルーツ生産(ウガンダ/KadAfrica社)

IBが本件で取り上げられた理由の一つとして、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の策定があります。SDGsでは、これまでの「開発援助を通じた貧困削減」から「あらゆるリソースを通じた持続的社会の実現」を目指すという視点への変化がありました。政府や国際機関、NGO、開発援助関係者だけでなく、民間企業等あらゆる層が参加して目標が策定されており、このことは、民間セクターにとっても成長だけでなくどのように持続的な社会へ貢献するかという視点が不可欠になっていることを示しています。その結果、援助機関としても、政府のみならず現地発のIBとどのように連携するかが課題となってきます。JICAにおいてもIB活用・連携を見据え、従来の協力体系を超えたイノベーティブなアプローチの模索が必要となってきました。

ユーザーへのヒアリング調査(ウガンダ/BanaPads社)

本件では、IBがとりわけ活発なインド、ケニア、ウガンダで、現地発のIBを中心に、女性・女子特有の課題に取り組む事業、ITやイノベーティブなビジネスモデルを採用している事業で、より社会的課題解決に貢献しているものを事例として取り上げました。M-Kopa社(ケニア)は、東アフリカ諸国で政府のサービスが届かない無電化地域等へソーラー発電システムを電化製品のパッケージとともに提供する事業を展開している、顧客数約60万世帯、従業員数1,000人以上の大企業です。顧客は携帯電話を利用した送金システム(M-Pesa)を活用し、希望のプランで製品代金の分割払いをすることができるというビジネスモデルを採用しています。これにより、政府のサービスが届かないBOP層に対して、そのニーズに見合った製品・サービスを提供し、ビジネスを通じたBOP層の生活の質の持続的な向上につなげています。

家庭用ソーラーセット(ケニア/M-Kopa社)

また、他ドナーによるIBへの取り組みも調査しました。例えばGIZ(ドイツ国際協力公社)のLab of Tomorrow(LoT)というプログラムでは、特定の課題分野で活動している途上国及びドイツの企業や政府関係者などのステークホルダーを幅広く集めたワークショップをドイツで行います。この中で出されたビジネスモデルに対しては、そのプロトタイプのテスト・パイロット段階から資金的・技術的支援を行いつつ、GIZの事業の成果につなげています。このように、単独で実施されるビジネスを直接支援するのではなく、多様なステークホルダーとのネットワークを広げてビジネスのあらゆる側面・段階について戦略的に事業を行えるよう、計画段階から十分な時間をかけているのです。

これまで、JICA事業は政府対政府(GG)ベースのものが中心で、民間連携といえばその外にあるものと考えられがちでした。これに対して、本件では、途上国における課題の洗い出しから活動まで、現地発のIBだけでなく、政府、民間企業、NGO等の幅広いステークホルダーを巻き込んで事業をデザインし、JICAの本体事業の中で効果的に連携していくような、これまでになかった形の「民間連携」を実現させてゆくことを報告書の中で提言しました。

*本稿は2018年7月に執筆したものです。

コンサルティング第一本部コンサルタント  横山 仁美

貢献可能なSDGs目標

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