プロジェクトリポート

タイ国地方レベルの統合中小企業支援普及

正直に言えば、この案件はやりたくなかった――。

自分の携わったプロジェクトにフォローアップ案件が出るのは、先行プロジェクトの成果が一定の評価を得たからに違いなく、また、継続受注の可能性も高いので、一般には喜ばしいことなのでしょう。しかし、実際にそうなってみると複雑です。

「タイ国 地方レベルの統合中小企業支援普及」案件は、3年間の技術協力プロジェクトを終えた後に、フォローアップ協力として実施された専門家派遣です。フォローアップの話が持ち上がったのは、技術協力プロジェクトの終了が数か月後に迫った頃でした。それまで、「タイにおける中小企業分野の協力はこのプロジェクトで最後」とJICAからも言われており、「プロジェクト終了までにタイ側が自力で展開していける状態に仕上げなければ」という一念で走ってきました。また、十分に仕上がりつつある実感も持っていました。継続支援を要望したタイ側のプロジェクト担当者に、「今になって何故そんなことを言うの?」という思いがこみ上げました。それは、「自分たちでやって行こう・やって行ける」という決意や自信を彼らに持たせるに至らなかった自分への落胆でもありました。さらに、「このプロジェクトで最後、継続は無い」と言い続けていたはずのJICAがあっさりと方針転換したことにも軽いショックを受け、いよいよ外堀を埋められてしまったと観念したのでした。

地方レベルの統合中小企業支援とは、中小企業支援機関や中小企業コンサルタントが県単位で連携ネットワークを構築し、地元の中小企業を総合的に支援するものです。中小企業の課題に応じて、適切な支援機関やコンサルタントに取り次いだり複数の支援機関・コンサルタントがチームを組んで共同で支援したりします。2013年から4県で開始し、2015年から7県を追加、2017年からさらに10県を追加して、2018年9月時点で計21県に普及済みとなりました。タイ工業省産業振興局は、今後5年間で全国76県への普及を完了する計画を掲げています。

このような連携による総合支援を提言した開発計画調査型技術協力プロジェクト(2009年~2011年)から、提言の実践を支援した技術協力プロジェクト(2013年~2016年)、全国普及体制を盤石にするための専門家派遣(2016年~2018年)まで、ユニコが一貫して手掛けました。そして私自身も3つの案件を通じて携わらせていただきました。9年半に及ぶ長い付き合いを振り返れば、与えたものよりも与えられたものの方が大きかったようにも感じます。2013年からの技術協力プロジェクトで初めて総括を務め、継続案件を引き受ける複雑な思いを経験し、自分の立ち位置や相手との距離の取り方を量りながら歩んできた過程でした。

スマホのセルフィー機能を使ってアイスブレーキングゲーム
マニュアルをバラバラにしたカードを並べ替えるゲームで実施手順の理解向上

さて、観念して引き受けたフォローアップ専門家派遣ですが、「やって良かった」と思える部分もあれば、やはり「やらなければ良かった」と思う部分もあります。同じユニコチームが引き続き関わるからには、長い付き合いだからこそ可能な“弱点をピンポイントで補うだけの支援”を極めようと考えました。要するに余計なおせっかいを焼かないということですが、これによって活動が滞るどころかむしろ加速したことは私にとって嬉しい学びでしたし、実際に産業振興局の担当職員がぐんぐんと力を伸ばしていく様を目の当たりにして、「やって良かった」と思いました。一方で、慣れ親しむにつれ緊張感が薄れ、以前ほどコミュニケーションに注意を払わなくなります。知らぬ間に甘えや依存が生まれてしまいがちな時期だからこそ、特に意識して関係性をコントロールすることの重要さを痛感しました。人は、周囲との関係において置かれた立場によって行動が変容し、成長もすれば停滞もするものです。産業振興局職員の豊かな発想力や物事を進める柔軟さに触れるたびに、「この専門家派遣が無ければ、もっと自分たちで工夫したのではないか」、「そのほうが展開が早かったのではないか」と考えずにいられませんでした。

2018年9月11日。9年半の協力の集大成とも言える最終成果発表会でユニコチームを代表して登壇するにあたり、私には小さな企みがありました。発表の最後に、過去に遡って本件に携わった面々の写真を投影し、全員を代表して感謝の言葉を述べよう。古い写真を集めてスライドを作りました。さて、30分ほどの発表も結びに差し掛かり、会場の反応を期待しながらスライドを進めると…表示されたのは真っ白なページ。

会場のPCやプロジェクタとの互換性の問題だったのでしょう。いかにも残念で、これが最終的な協力成果を象徴する出来事でないことを祈ります。でも、この事態を面白く思った壇上の私は、思った通りに仕上がらない不完全さを楽しめる気の持ちようを9年半の間に確かに教えられていたのでしょう。特に、口を出さずに見守ることに努めたこの2年間に。

もしもフォローアップ専門家派遣が無かったら――。歩かなかった道を、今でも空想することがあります。

幻の“ありがとう”スライド

*本稿は、2019年1月に執筆したものです。

コンサルティング第一本部  及川 美和子

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