プロジェクトリポート

アフリカ地域カイゼン支援に係る標準アプローチ策定調査

2018年 8月末に約1年間のプロジェクトとして終了した「アフリカ地域 カイゼン支援に係る標準アプローチ策定調査」の活動概要と、そこから得られた気づきをユニコの現状にも照らし合わせて述べてみます。

JICAはこれまでにアフリカ8か国(*)においてカイゼン普及のための技プロ案件を実施しています。ユニコはその内、ザンビアとタンザニアを主管コンサルタントとして実施しています。本調査の目的は、今後のアフリカにおけるカイゼン普及・展開に向け、これまでのカイゼン案件実施国(全世界を対象)における案件の評価・分析を行い、そこから得られる教訓等を基にカイゼン支援に係る標準的なアプローチを提案するものでした。その中には、手法の標準化のみならず、カイゼンを教える際のカリキュラムや課目の作成、組織構築・ネットワーク化、さらにはカイゼン活動の評価方法や指標なども含まれます。それらを今後、アフリカにおいてカイゼン導入を予定する国の関係者向けに「カイゼン・ハンドブック」として纏め、併せてJICA職員向けの「執務参考資料」を作成することにありました。

調査は、これまでカイゼン技プロを実施したアフリカ8か国に加え、アルゼンチン、マレーシア、シンガポールでの聞取り調査、データ収集・分析を短期間のうちに行うと言うことで体力勝負の案件と当初は思われました(このほか日本、南アフリカでも現地調査)。実際、1か国あたり5日間を現地調査にあて、土日移動の繰返しはそれなりに厳しいものでした。特に現場調査として地方部の企業視察も入れたことで肉体的に疲れる反面、異なる国の様々な風景を見られたことは楽しくもありました。ただ体力勝負と思われた業務も成果品を纏める段階から次第に頭を使う調査研究型へと趣が変わっていきました。

すなわちJICA側の要望がそれまでの活動エッセンスを整理し、提言として纏めると言うよりも、新たな時代変化を見越したカイゼンアプローチを模索し、そこでのカイゼン活用方法を提案することへと変化して行きました。そのためそれまで取り組んでいたカイゼンの5S、TQM、TPS等の分析からは一旦離れ、”Firm capabilities”、”Leap-frog”、”Decent work”、”Innovation paradox”などの新たな概念や考え方をテーマとして、これらを達成するためにカイゼンを如何に活用するかのアイデア出しに取組むこととなりました。主題が変わったことにより最後のまとめには大変苦労しましたが、幸いに多くの方の助言、支援もあり、最終的にはFirm capabilitiesを上げるためのカイゼンアプローチとして成果品は纏められています。但し、従来からの品質・生産性向上の手段としてのカイゼンに馴染がある人にとっては少々趣が異なる内容かも知れません。

さて、カイゼンと言えばトヨタ生産方式(TPS)が有名です。昭和25年頃よりトヨタ社が求めてきた生産方式は、多種少量生産で安く作ることのできる方法の追求でした。当時、米国での大量生産方式、あるいはその効果を高めるためのTQC(総合的品質管理)やIE(インダストリアルエンジニアリング)などの生産管理技術の適用から、工業分野の生産性は日本と米国で7~8倍近い開きがあったとされています。この差を締めるためにトヨタが目を付けたのが、あらゆる「ムダの排除」でした。すなわち、トヨタ生産方式の基本思想は、「徹底したムダの排除」と言われる所以です。よく耳にする「ジャストインタイム」や「自働化」はそれをなすための二本柱であり、「かんばん」方式は、トヨタ生産方式をスムーズに動かす手段です。

翻ってユニコの業態を見た場合、分野・テーマが異なる案件を次々にこなしていくと言う点では多種少量生産に繋がる点があります。しかるに業務における生産性はすこぶる低い。労働時間をベースとした稼働率比だけでなく様々な無駄があちらこちらに散見されます。これでは個人としても会社としても成長することは難しい。その無駄を少なくするには、会社として、あるいは各部署としての組織的な取組みと共に、働く人一人ひとりの意識改革、あるいはスキルや専門性の向上が求められます。こう言うと「ユニコは単なる工業製品の生産現場ではないため製造現場の品質・生産性向上とは異なる」との声が聞こえてきますが、人間らしい働き方によって利益を上げると言う点ではその考え方、改善のアプローチに何ら変わりはありません。

トヨタ生産方式の生みの親と言われる故大野耐一氏は、「ジャストインタイム」と「自働化」の関係を、野球に例えて、前者をチームプレー、後者を選手一人一人の個人技と説明され、両者の相乗効果が、強力な現場力、あるいは企業力を生み出すと説かれています。そのための第一歩は一人一人の意識改革なのかもしれません。

アフリカ・カイゼン・カンファレス(南アフリカ ダーバン)

*2020年3月現在、JICAでは南アフリカを含めたアフリカ地域9か国とされています。
*本稿は2018年10月に執筆したものです。

Firm capabilities:  組織が保有する知見・能力や組織の評判などのこと

Leap-frog: 新興国が先進国から遅れて新しい技術に追いつく際に、通常の段階的な進化を踏むことなく、途中の段階をすべて飛び越して一気に最先端の技術に到達してしまうこと

Decent works: 働きがいのある人間らしい仕事、日本の躾の概念を含む

Innovation paradox: 先進国政府や企業が保有するノウハウや専門知識を途上国が積極的に導入し、イノベーションを推進することで経済成長が促進される可能性が極めて大きいにもかかわらず、途上国の政府や企業がこうした知識ストックを活用するために比較的少ない資金しか投じていない逆説的な状態のこと

コンサルティング第一本部
渡邊 洋司

貢献可能なSDGs目標

CONTACT