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ユニコラム

海釣りの話

 これは小生 “林Q” と釣り友(通称 “安っさん”)が海上保安庁の巡視船に、だ捕されかかった時の話であります。


 小生は何にもまして海釣りが好きで、小さいものはシロギス、カワハギから、シーズンによってイサキ、真鯛、ヒラメ、金目鯛、黒ムツ、アコー鯛等を狙っています。食べられる魚を釣ることが目的で、近年よく見られるCatch & Release的な釣りにはあまり興味がありません。勿論規格サイズ以下の魚が釣れた場合は成長後の再会を期して即座にReleaseをしています。釣り場の水深は、10数mから深い所では500-600m(深場釣り)に達します。カバーしている地域は、千葉県外周近海及び熱海までの神奈川県近海が主な釣り場で、この地域の一般釣り人用乗り合い船に乗って出港しています。一方、会社の釣り仲間と一緒に内房の館山湾、冨浦湾等の水深10-20mの浅場で、ボートでのシロギス・カワハギ釣りも楽しんでいました。

 それは、6-7年前の梅雨が上がった快晴の日のことです。その日の午後、私は風と波のない絶好の釣り日和に、勝浦湾でアジを釣るためにボートを積んで出かけました。

 午後4時頃から勝浦港に隣接する“ホテル三日月”の近くの駐車場で、持参したゴムボート(4人乗り、2馬力エンジンとドーリー(2輪)付き)を組み立て、砂浜で遊ぶ家族連れを横目に勝浦湾の東側の岩場に向け出港しました。勝浦湾の東外側は隣の河津港まで半島状の断崖になっており、アジ等の魚の生息とともにその景勝のため高層マンションが高台に乱立している。私たちは過去の経験から夕まづめ(暮れゆく瞬間;我々はこれをオレンジタイムと呼んでいる)前後に多くのアジが外洋からこの岩礁の近くまで戻ってくることを知っていました。

 

 生憎この日は、オレンジタイムが過ぎてもアジのまともな当たりはありませんでした。 小生が、「安っさん、あたりが来ないね、場所を変える?」と言うと、彼は「もう少し待とう、梅雨が終わり、急に晴れたのでアジの戻りが遅いのかもしれん」と、辛抱しながら同じ場所でひたすらアジを待っていました。周りがすっかり暗くなり、二人ともヘッドランプで水面を照らし海中を見続けました。暫くするとヘッドランプに反応する戻りアジが現れ、仕掛け針にかかり出しました。

 

 少々暗くなったが、「さあこれからだ!」と我々が意気込みだしたその時である。勝浦湾外西方(鴨川方面)から、釣り船でない巨大な船体が我々のボートに高速で急接近してくるではないか。このままでは波に飲み込まれ転覆する!と我々は強い恐怖を感じました。

 ところがこの巨大な船体は、我々の恐怖をよそに、どんどん我々のボートに接近して来たかと思うと、ボートと一定間隔を取り停止しました。100メートルもあっただろうか、その距離は定かではありませんが、船上からは何か叫んでいるようでした。最初は何を言っているのかが分かりませんでしたが、よく耳を傾けると、「こちらは海上保安庁の巡視艇~~です。そちらのボートの船長さん、これ以上こちらから近づくのは危険なので、そちらからつっくりこの船に近づいて来てください」と言っていて、どうも我々に話しかけているのだとわかりました。

 

 我々は、しぶしぶ釣り竿を納め、エンジンをかけその船に近づいて行きました。そうすると巡視艇のトップから我々のボートを照準にスポットライトが当たりだし、それが我々を追い続けました。その光景は、あたかも海上を舞台として二人の役者が突然登場したかのようで、小生はその舞台の主人公になったような錯覚に陥りました。

 我々が巡視艇船側に接近すると、巡視艇からは、「我々はボートが遭難しているとの通報を受け出動しました、大丈夫ですか」と。こちらからは、『アジの戻りが遅れたので時間がすこし遅くなってしまったが、特に異常はない』事を伝えたが、巡視艇側からは職務質問が長々と続きました。質問が一通り終わるとあたりは真っ暗になり、「遅くなったから気をつけて帰ってください。」と言われて巡視艇からやっと解放されました。

 

 明かりを放つホテル三日月に向かって、ゆっくりボートを走らせ帰路につきました。砂浜から上陸しボートをたたみだすと、どこから現れたか二人の制服の海上保安庁の職員が近づいてきて、もう終わったはずの尋問がまた始まりました。

 職員は、『一旦巡視艇が出動するとそれなりの調書を上に挙げる必要がある』と前置きして、今度は一人がこと細かに住所・氏名・年齢・会社名等を記載していました。一通り説明が終わり納得してもらえたかと思ったが、最後に「クーラーを開いてもらってもいいですか?」と言われたときに、我々はやっと悟りました。『誰かに湾内での密猟(サザエとかアワビ)を通報されたのだ、それで巡視艇が出動したんだ』と。

 職員たちは、クーラーの中を覗いてアジが10匹前後しかいないことを確認し、我々の対応に嘘がない事を理解したらしく、その場を立ち去りました。やっと本当の解放となったが、小生はその職員が我々の逮捕も想定して尋問していたのだと気が付きゾッとしました。

 

 去り際に、若い方の職員が親しげに近づいて来て「勝浦湾はどのあたりがよく釣れるんですか??」と聞いていた。隣で安っさんが叫んでいた。「誰だ、我々をチクった奴は、我々は法を犯してなんかないぞー」と。

 

 奇しくもこの頃は、サンゴを密猟するために中国船が大挙して小笠原島周辺に現れ、根こそぎ採りまくっていると新聞紙上を賑わしていた時であった。

小生が海上保安庁のお世話になったのは、後にも先にもこの時だけである。


コンサルティング第二本部 林Q

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